10月/最も美しい季節「黄金の丘」
皆様こんにちは。前回はどんなレポートでしたっけ・・・と辿ってみたら、ブドウの収穫と醸造についてでした。ブルゴーニュの最も美しい季節、10月のブドウ畑の黄葉をお見せしていませんでしたので、少しだけですがお楽しみください。
ブルゴーニュワインが作られる丘陵一帯は、コート・ドール(黄金の丘)と呼ばれます。県名がコート・ドール県であること、朝日が当たる東向きの丘(コート・ド・オリエント)にブドウが植わっていること、そして秋の美しい黄金の風景などから、この呼び名になったと言われています。
11月/ブルゴーニュ最大のワイン祭り「栄光の3日間」
11月中旬の一大イベント、「オスピス・ド・ボーヌのワイン競売会」が、延期されつつも先日ようやく終了しましたので、今回はそれについて書きたいと思います。
そういえば、同じ時期に「ボジョレー・ヌーヴォ解禁」もありますが、今年は現地での解禁イベントも中止され、盛り上がりに欠けたようです。私自身は毎年ボーヌのイベントに忙殺され、いつも終わってからボジョレーに気付くという有様です。
ブルゴーニュワインがお好きな方でしたら、「栄光の3日間」のお祭りに一度訪れてみたいという方も多いのではないでしょうか。毎年11月の第3金曜から日曜にかけて開催され、人口わずか2万人あまりのボーヌの街が、世界中からの訪問客でごった返します。
プロ・アマ関係なく、ワイン愛好家であれば誰でも訪れることができます。エキスポ会場にブルゴーニュの全ての村のワインが並ぶ大試飲会、各ネゴシアンが熟成ヴィンテージを振る舞うスペシャル試飲会、音楽やパレード、いい匂いを漂わせる軽食スタンド、コルク抜きのスピードを競う大会、ワイン街道を走るハーフマラソンなどで賑わいます。
この週末を目指してやって来る日本からのツアーも多く、ホテルやレストランなどは、ずいぶん前から予約をする必要があります。ご興味のあるお客様は、お早めにトゥッタ・イタリアさんにお問い合わせください。
お祭りも、今年はCOVIDの影響で中止になりました。ですが、本来のメインイベントである「オスピス・ド・ボーヌのワイン競売会」は、長い歴史と伝統があり、今年もワインは出来ていますから、中止というわけにはいきません。
11月15日(日)に予定されていたところ、10月末から2度目のロックダウンが始まりました。オンライン開催?オークション会場は無人で?そもそも落札前に品定めするためのワインの試飲は?・・・と、様々な憶測が飛び交う中、主催者のクリスティーズも1度は敢行宣言をしたものの、程なく延期が発表されるという混乱ぶりでした。
「オスピス・ド・ボーヌ」の歴史を少し。14世紀から15世紀にかけて、北はフランドル(現在のベルギー)から南仏(アヴィニョン辺り)までの広大な領土と、フランス王家と互角の勢力を誇った大国が、ブルゴーニュ公国でした。
最盛期の3代目王、フィリップ・ル・ボンの側近が、ニコラ・ロランという大臣。彼と妻のギゴーニュ・ド・サランの発案と寄付金で創立されたのが、ボーヌの施療院でした。貧しい病人を無償で救う、という方針に賛同したブルジョワたちから、金銭や土地(ブルゴーニュでは当然ながらブドウ畑)、建物などが寄進されました。
寝たきりでも礼拝に参加できるようにベッドが並べられたチャペル、天井までルネッサンス絵画で飾られた特別病室、フランドル地方からの豪華なタペストリーや色鮮やかなモザイク模様の瓦屋根(上の写真)など、貧しい人たちも、終末期を心豊かに過ごせるような配慮が尽くされた施設でした。
記録によれば、1457年に「ボーヌにあるボーモン・ル・フランのブドウ畑、6ウーヴレ(24ウーヴレが1ヘクタール)が寄進された」のが、オスピスのワイン造りの始まりです。これを馴染みの客に販売することで、病院の運営は順調に回っていきました。
フランス革命も、2度の大戦も無事にくぐり抜けた施療院は、ほんの50年前まで病院として機能していました。郊外の市立病院に移転後は、施療院のチャリティー活動とワイン造りの歴史を伝える博物館となり、年間80万人もの入場客を迎えています。皆様をボーヌにご案内する際も、必ずコースに組み入れるスポットです。
1859年から現在のような競売会の形となり、世界中で最も格式と知名度のあるワインオークションに。2020年の今回は、第160回目でした。
会場となるレ・アル(市場)の建物内は、赤絨毯が敷かれ、通常なら約600席が設けられます。私たち一般客は、長蛇の列に並べば、会場内の最後列から見学もできます。もしくはガラス貼りの建物外から覗いたり、11月下旬はすでに厳しい寒さですので、ホットワインで温まりながら、会場前の大型スクリーンを見守ります。
今年は、そんな黒だかりの人混みもホットワインもあり得ない状況の中、4週間遅れの12月13日(日)に競売会が行われました。私もお客様のために申し込みをしていましたが、参加は取り止め、オンラインでライブ中継を見守りました。
2020年は、474樽の赤ワインと、156樽の白ワインが出品されました。全部で50キュヴェ(50種類の畑違い)が640のロットに分けられ、14時から20時すぎまで競り合いが続きました。
毎年1樽だけ指定される「プレジデントの樽」は、今年はグランクリュ「クロ・ド・ラ・ロッシュ」の力強い赤ワイン。第160回を記念して、ロワール地方のシャンボール城の森を産地とするオーク樽で熟成中です。
この「プレジデントの樽」で今でも憶えているのは、当時サルコジ大統領夫人だったカルラ・ブルーニさんがプレジデントを務めた2012年。売上金は慈善団体へ寄付される訳ですから、落札額が上がったほうが良いということで、彼女がマイクを握って訴えかけました。「落札者には、プライベートで一曲歌います」・・・しまいには「樽のお届けには私自身が参ります」「何なら夫も同行で」と冗談交じりで、会場を大いに湧かせたのでした。
今回は、コロナ治療の最前線で命を落とした医療関係者(フランスでは100名強の方がいるそうです)と遺族への補償に充てられるということで、「プレジデントの樽」には66万ユーロ(約8250万円)の落札値が付きました。たった1樽(ボトル換算で288本分)、もちろん記録更新です。
気になるワインの出来は、8月17~29日収穫と記録的な早さだった点はありますが、昨年よりも締まった酸味、フレッシュで豊かな果実味が特徴だそうです。良作であることに加えて、競売会が史上初の延期となった年、医療支援に充てられるという要因も絡んで、総額1434万6233ユーロ(約18億円)という、チャリティーとしての大成功を収めました。
このイベントが終わると、ブルゴーニュのワイン関係者にとっては、もう仕事納めのようなもの。「ゆく年くる年」状態です。シーズンが終わったことを互いに労い、クリスマス休暇を楽しみに待つばかりです。
12月/ディジョンの街のクリスマス
11月最終週あたりから、フランス各地の街でクリスマスのイルミネーションが点灯し、年の瀬らしい雰囲気となりました。
フランス版・2020年の流行語大賞を勝手に決めるなら、「confinement」コンフィヌマン、でしょうか。いわゆる外出禁止令のロックダウンです。20年住んでいますが、こんな単語は今年初めて知りました。5月中旬に解除となって「デコンフィヌマン」、10月30日からは再度のロックダウンで「ルコンフィヌマン」など、あまり嬉しくない別バージョンもあります。
さて、この10月末からの外出禁止令で、マルシェ・ド・ノエルへの期待感は一気にしぼんでしまいました。我が家の恒例行事であるアルザス地方のマルシェも、全ての自治体で中止が発表され、代わりに10月のアルザスの黄葉を見に行きました。これもまた、溜め息が出る美しさで良かったです。
12月14日までの規制では、初めは自宅から1kmまでという外出制限がありましたが、途中から20kmまでに緩和。ボーヌの街までは26kmあるので駄目ですが、ディジョンならセーフという変な状況になりました。ともかく、イルミネーションは点灯しているというので、日没後のお散歩です。
恒例のマルシェは中止で、キラキラしたプレゼントを売るスタンドや、ワッフル、ホットワインのいい香りもなし。観覧車、スケートリンク、子供向けのミニトレインも中止で、静かなクリスマスです。
14~15世紀にかけて、ブルゴーニュ大公の宮殿であった「パレ・デ・デュック」前の広場です。ディジョン市と商工会議所も、市民を励まそうと頑張ってくれたのか、一段と高さのあるクリスマスツリーが飾られています。
それなりに人出がありましたが、何もすることがない分、みんなツリーを見上げてお喋りしたり、セルフィーを撮ったりしています。広場がいつもより広々としていて、色々な角度から眺めることができました。こんなシンプルな楽しみ方も、これはこれで良いのかなと感じました。
この大公宮殿は、現在はディジョン市庁舎とボザール美術館となっていますが、中央に「フィリップ・ル・ボンの塔」があります。クリスマスイヴの夜、46mの塔の上から、サンタクロースがロープ伝いに降りてくるイベントも、今年は中止が決まりました。普段は市役所のガイドさんと一緒に316段の階段を登れますので、お越しの際は、ぜひ上からも街を眺めてみてください。
11月末からは、食料品以外を扱う店舗も営業可能となり、プレゼントの買い出し客で、街はそこそこ賑わっています。現在は、20時から6時の夜間は外出禁止です。1月7日以降に美術館や劇場などの再開を検討、レストランなどは1月20日以降とのことです。
クリスマス休暇だけは、何としても楽しめる状況になるよう、政府も国民もかなり計画的に我慢を重ねて、ようやくここまで漕ぎ着けることができたように思います。
クリスマス休暇中は、感染に気を付けながらの旅行や、家族や友人など6名までの会食は許されます。フォアグラ、甘口ワイン(ブルゴーニュのシャルドネ種で造る白ワインは、甘さに酸味も効いていてお勧めです!)、シャンパーニュ、生牡蠣、ホタテ貝、七面鳥、チョコレート(ディジョンには最近3年間でショコラティエが乱立、嬉しい悩みです)・・・などなど、クリスマスの定番のご馳走が、賑やかに店頭に並び始めました。
20kmなどという行動制限がないのは、何と自由なんでしょう。日本のような「自粛要請」とは違い、本当に罰則付きで「禁止」されていたのがいかに重い措置だったのか、自由になってみて、そのありがたさに改めて気付きました。
後から地元紙で読みましたが、広場の巨大ツリーは、361本のモミの木を組み立てたとのこと。市民の士気を高める意味もありますが、何より地元モルヴァン山地の農林業を助けるために、ロックダウン前から決まっていたとか。
身近なところに目を向け、自分にできること、誰かの助けになりそうなことから、ゆっくり取り組んでいこうと強く思うようになりました。この12月は、ガイドで出会ったお客様たちに久しぶりにコンタクトを取り、ドメーヌから直送ワインの個人輸入を提案してみたところ、思ったよりも多くの反応をいただきました。久しぶりに近況交換もでき、小さなボランティアですが大満足でした。
まだ終わりの見えないコロナ禍ですが、澄んだ冬の空気に輝くイルミネーションに元気をもらい、あと少し頑張りましょう。皆様も、ご家族の健康には十分留意されて、どうぞ穏やかな年末年始をお迎えください。
(ブルゴーニュ・花田砂丘子)