2020/09/02

ミラノにあって他県にないもの

スターバックス、ミラノ限定オリジナルエコバッグ

ハーゲンダッツの件

私は群馬出身である。
しかしグンマーとして24年、ミラネーゼとして25年住んでいるので、すでにミラノ生活の方が長くなっています。それはさておき…。
よく日本のテレビのご当地自慢対決番組で、北関東3県が醜い争いをしていますが、私個人としましては「群馬にあって他県にはないもの」として「ハーゲンダッツ」の工場を一押ししています。

ハーゲンダッツの工場は世界に4つしか存在していないにも関わらず、なぜか群馬にはあるという。アジア地区で食されているハーゲンダッツを全て群馬が統括しているという群馬七不思議の一つでもあります。

スターバックスの件

一方、ミラノには近年になって(個人的に)誇れるものが2つできました。

「スターバックス・リザーブロースタリー」と「ユニクロ」。コレは他県にはありません。

2018年9月にイタリアに初上陸したスターバックスは「世界一美しいスターバックス」と称され、シアトル、上海に続き、世界3店舗目の高級店として誕生しました。

映えあるイタリア1号店は、ミラノそのものから大きなインスピレーションを得て、その明るい色使いは、ミラノのファッションとデザインの歴史を称え、そのブロンズと大理石の内装はミラノの街並みに溶け込むよう設計されました。

まるでコーヒー工場のような店内中央には巨大な焙煎機が置かれ、そこからコーヒー豆の包装ラインまで店内をどこでも見学することができます。

床のデザインはミラノの歴史を意識して地元の職人の手によって丁寧に作られ、店の入口周辺は壁一面にスターバックスの歴史とそのコーヒーを紹介するビジュアルが掲げられ、スターバックスのアプリを使えばさらに詳しく知ることもできます。

バーカウンターに大理石を使ったのは、世界中のスターバックスでもこの店舗が初めてですが、実はコレ、ミラノのバールでは定番の作りとなっています。放射熱を使って温められるため、コーヒーが冷めないようにという配慮です。

スターバックスにとってミラノという街は、CEOを務めてきた元会長のハワード・シュルツ氏が1983年に訪れた時からの念願でした。オープニングでは「ミラノでの出店でスターバックスの歴史は原点に返ってきた」とコメントしていました。

国内にある5万7000店舗以上のバールと競い合わなければならないイタリア市場への進出は、スターバックスにとっては大きなリスクだったと思います。エスプレッソの文化がアメリカで形を変え、イタリアに逆輸入されたようなもの。

まるで、インドのカレーが日本で変化して、カレーハウスCoCo壱番屋としてインドに初出店するのと同じですね。賛否両論ありましたが、「スターバックス・リザーブロースタリー」は2年たった今でも人気の店舗となっています。

ユニクロの件

「ユニクロ」のミラノ旗艦店は2019年9月、コルドゥジオ広場のスターバックスの目の前にオープンしました。イタリア初出店となる店舗は3階建て、総面積は約1500平方メートル。

内装の壁はトスカーナ州の土と日本の土壁職人のコラボ。京都製のランプなどを配置し、まさに「イタリアと日本の伝統工芸の融合」が特徴です。

「ユニクロ」は2001年のロンドンを皮切りに欧州で10市場90店舗を展開しています。(コロナの影響で、今後どうなるかは今のところわかりませんが…)

「イタリアと日本の伝統を、完璧なスタイルで融合した建物に完璧なロケーション。品ぞろえも万全だ。理想のロケーション探しが第一だが、今後イタリアでは100店舗を構えたいくらいだ。実店舗がなくなることはないという確信がある」と2019年のオープン当時、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長は語っていました。

店内に入るとまず目につくのは50色のカシミアのセーターによるディスプレイ。

イタリア中どこを探しても、一つの商品に対して50色も展開している店はありません!

柳井社長はイタリアの芸術や文化に融合するブランドの「フェラガモ」や「プラダ」といった、グローバルブランドを例に挙げ、「ミラノは特にメンズにおいて右に出る者のいない都市であり、ファッションとデザインの首都。だからこそ、旗艦店は観光客ではなくミラノの顧客に焦点を当てる…」と地域を正しく理解する重要性も強調していました。

つまり、「ユニクロ」は名だたるミラノの有名ブランドに喧嘩をふっかける気はサラサラ無く、むしろ、すべてのブランドと「共存」できる道を選び、50色というカラーバーリエーションを持って「名脇役」に徹するという、新しい道を選んだような気がします。

同じファストファッションでも「ザラ」などは真っ向から戦いを挑み、常に主役を目指していますが、「ユニクロ」は機能性を重視し、他のブランドのサポートに回っているのが、なんとも奥ゆかしい。

私たち日本の文化である「着物」は、幅40センチ長さ13メートルの布(反物)を裁断し、仕立てることで出来あがった衣服です。様々な型やデザインがある洋服とは異なり、着物は基本、同じフォルムをしているのが特徴です。

つまり「着物」の良し悪しを何で判断するかというと「染め」と「織り」。これらを理解することは着物を知る上での重要な第一歩であり、素材を見極める「目」が古くから日本人に問われていました。

西洋の服のように外枠のラインを重視するあまり失われてしまった機能性を、ヒートテックやエアリズムのような新素材を使って補い、お互い足りない部分を支え合っている形は「多様性」を持つ新しいファッションのスタイルだと思っています。

他の追随を許さず、新しいものを躊躇なく自分たちの文化に取り入れてしまう、ミラノという街の度量と柔軟さに、いつもながら脱帽。

(ミラノ/川倉靖史)