時間にはルーズだと言われるイタリア人ですが、自国料理に捧げる忠誠心はなかなかのもので、フランスの某レストランで働いていたイタリア人シェフがどんなに注意されてもパスタのアルデンテの茹で加減を変えなかった(変えたくなかった)挙句、そのレストランをクビになったという話もあるほどです。
今回紹介するローマ料理の代表的なソース、「アマトリチャーナ」に関しても一騒動おこったことがあります。アマトリチャーナはグワンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)、ペコリーノ・ロマーノチーズ、トマトを用い、イタリア農業省からラツィオ州伝統食品に認定されているローマ3大パスタ料理の一つです。その原型は、羊飼い達が作るチーズとソースの名前の由来になっているアマトリーチェ村の人が作る豚加工品に手打ちパスタでできた一品「グリーチャ」で、1790年にローマの料理人フランチェスコ・レオナルディが書いた教則本の中に初めてトマトソースが加えられたアマトリチャーナが登場しています。ということは何と約230年の間、大切に受け継がれている料理ということになります。
そんなアマトリチャーナに、ニンニクを加えるか加えないかで論争になったことがありました。あるイタリア人有名シェフが自分が作るアマトリチャーナの隠し味はニンニクだ、と言ったところ、これがスキャンダルを巻き起こし、ラツィオ州の州知事が『私はニンニクを使わないね』と宣言したり、アマトリーチェ村の村長が『本物の味を知ってほしい』と、そのシェフを村に招待することにまで発展しました。料理のレシピでここまでの騒動になったのはイタリアならではと言えます。
そんなイタリア人、ローマっ子が集まるアマトリチャーナで有名なレストランが『イル・マトリチャーノ』。ローマの方言ではアマトリチャーナの事をマトリチャーナというので、まさしくThe アマトリチャーナなレストランです!
1890年にアマトリーチェ村で生まれた創業者ルイジ・コラサンティがローマに1912年にお店を開けてから1世紀以上、4世代にわたり保ち続けている伝統の味です。3種類のシンプルな材料から生み出されるパスタは、トマトソースが多すぎたり少なすぎたり、ソースが濃かったり薄かったり、グワンチャーレを香ばしくカリッと焼き上げたりそうでなかったりと、お店によって本当に色々ですが、アマトリーチェ村で生産されIGP(保護指定地域表示)指定を受けているグワンチャーレを使用したこのレストランのアマトリチャーナは本当に絶品です。
現オーナーのアルベルトさんが『まずはそのままで食べて、その後に必要であればチーズを足して』というように、最初の一口はそのままで、その後お好みでチーズをかけて味わってみてください。
そして残ったソースは、パンですくって食べるスカルペッタで。イタリアの家庭ではもちろん、高級レストラン以外では皆が行うイタリア料理の醍醐味スカルペッタもぜひお試しください。
筆者が食べに行った土曜の夜は、少しおしゃれをした地元の人でほぼ満員。おいしい料理を食べられる上に、地元ローマっ子が集まるお店では、彼らの日常や気質などを垣間見ることができ、隣合わせになった人懐っこい地元民と話すのもまた楽しみ方のひとつです。
一緒に行った4人のローマ人が美味しい!と言ったイル・マトリチャーノのアマトリチャーナ。そして、パスタの後にもしお腹に余裕があれば、このお店のティラミスも食べてみてください。コーヒーを後から追加して食べるイル・マトリチャーノバージョンのティラミスは、ここ最近食べた中で一番美味しかったです。もしかしたら私の中でNo.1かも…。
材料がシンプルになればなるほど、食材の質が大事になってくるイタリア料理。ローマの太陽をたっぷり浴びたトマトとIGP指定のグアンチャーレを使用し、伝統を守り続けたアマトリチャーナとティラミスを是非お試しあれ。バチカン市国の観光とアマトリチャーナ、忘れられないローマでの1日になること間違いなしです。
(記事:LeMuse-JapanItaly)
Il Matriciano(イル・マトリチャーノ)
HP:https://www.ilmatriciano.it/
住所:Via dei Gracchi, 55, 00192 Roma
TEL:+39 06 321 2327