2021/04/02

静かなる復活祭

イタリア全土にレッドゾーン指定

レッドゾーン下のイースター
昨年に引き続き、今年の復活祭も「おうちでイースター」になります。
4月3日の土曜日、日曜日のイースター、翌日のイースターマンデーの3日間はイタリア全土で強制的に都市封鎖となり、連休明けに新たな法令が出て今後の予定が決まります。
生活必需品(スーパーマーケットなど)以外を扱う小売店の営業が停止されるほか、仕事や通院のほか、緊急事態以外での外出が制限されます。
ロンバルディア州は新規陽性者の増加に伴い3月15日から新たにロックダウンを行ない、フォンタナ知事は「市民に要求せざるを得ない犠牲としては、これが最後になることを願っている」と述べていましたが、現在も新規陽性者の7割近くが変異株により、一向に減少する気配が見られません。
また、カトリック総本山のヴァチカン教皇フランシスコによるイースター前夜祭のミサは、22時からの外出禁止令を踏まえ、通常より数時間早く実施される公算が大きいとしています。

今年は4月1日が「最後の晩餐」

「あなた方のうちの一人が私を裏切ろうとしている」
この衝撃的な爆弾発言によって、粛々と行われていた食事がパニック状態になりました。それは木曜日の18時のことです。

木曜日の18時
ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ教会の旧食堂の壁にはレオナルド・ダ・ヴィンチ作の「最後の晩餐」があることは言うまでもありません。さまざまな謎を残してはいるものの、何度も聖書を繰り返し読みイメージした世界観が、彼の職人技に伴って現在も見ることができます。
しかし研究の結果、実際に食事が行われていた部屋はここではないかとされ、デジタル加工により当時の様子を再現しています。
この時代、椅子に座ってテーブルで食事をするという習慣はなく、床に食べ物をおき、床に直接座って食事をしていたそうです。
実際に食事をしていた部屋?

さて、裏切り者のユダは教団の中で会計を務めていて、初期の頃からイエス・キリストの活動に付き従っていた弟子の一人でした。しかし彼はエルサレムに入ると不穏な動きを始めます。
過ぎ越しの祭の食事(結果的にイエス・キリストにとって最後の晩餐になってしまった)の前に、ユダはエルサレム神殿の祭司長のところへ行き、金でイエス・キリストを引き渡す約束を取り交わしていました。
イエス・キリストに殺意を抱いていた祭司長たちはこの申し出に応じ、イエス・キリストを引き渡せば銀貨30枚を支払うことを約束し、ユダをイエス・キリストのもとへ帰らせました。
ユダ
さらにユダ

この時点でユダは銀貨30枚が入った袋を手に握りしめていますが、実際は逮捕された後の「後払い」なので、この時点で持っているはずはありません。

その後、イエス・キリストに死刑判決が下り、ユダは激しい懺愧の念に襲われます。そして再び司祭長の元へ赴き、銀貨30枚を返却して事態の打開を図りますが、一度くだされた判決が覆されることはありません。失意の底に沈んだユダは銀貨を神殿に投げ込み、首をつって死にました。

「ユダの木」セイヨウハナズオウ

「ユダの木」セイヨウハナズオウ

セイヨウハナズオウは、キリスト教圏、特に欧米では「ユダの木」と俗称されるように、伝統的にユダが首吊りに使った樹木であると看做されてきました。
このような通念は、フランス語の通称「ユダヤの木(arbre de Judée)」からおそらく誤って派生したものであるということですが、花言葉としては、高貴、質素、不信仰、裏切り、疑惑、豊かな生涯、目覚め、喜び、エゴイズム、人のおだてに乗りやすい、裏切りのもたらす死、ということです。

なぜユダはイエス・キリストと裏切ったのか、考えられる動機は「金銭説」「サタン説(悪魔にとりつかれた)」「失望説(イエス・キリストがローマを倒してダビデの王国を建設するであろうという期待を裏切られた)」という説があります。

キリスト受難の時系列を整理してみますと、

【木曜日】
18時 最後の晩餐
22時 イエス・キリスト逮捕。

【金曜日】
早朝 死刑判決
9時 十字架を背負いゴルゴタの丘へ、その後、十字架にかけられる。
12時~15時 辺り一面が暗くなり、絶命まで暗闇に包まれる。
15時 絶命とともに神殿の垂れ幕は上下真っ二つに裂ける。
夕方 遺体に香油を塗り埋葬。

【土曜日】
安息日

【日曜日】
聖母マリヤ、マグダラのマリヤ、サロメの3人が香油に塗りに行くが墓の中はもぬけの殻。

と言うことから、日曜日とはキリストの復活を祝う「イースター」になります。

一度は見てみたいシチリアのイースター

イースターを題材にしたオペラといえば、マスカーニ作曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」が挙げられます。シチシアが舞台となっているオペラの中で、イースター当日の教会へ向かう聖体行列が表現され、その中でも特に女性の民族衣装が注目されます。
先祖代々の思いが染み込む見事な民族衣装は、何百年もの間、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきた、大変な貴重なものでもあります。
イースターの衣装や装飾品は、時代を越え手直しを加えながら今に至ります。イースターという晴れの日にその衣装に袖を通し、心の底からキリスト復活をお祝いをしている様子が人々の表情から窺い知ることができます。

オペラに出てくるイースターを祝うパートに字幕をつけてみましたので、ぜひご覧ください。

(川倉靖史、ミラノ)